『恍惚の人』(1973・東宝)
有吉佐和子さんのベストセラー『恍惚の人』の映画化、
40年遅れではありますが見て良かったです。
老人性痴呆症(当時は認知症という言葉はなかった)と介護を描いたことで、
当時は流行語になったほど反響の大きかった作品でしたが、
怖くいような気がして、読むことも見ることも出来ませんでした。
解説によれば、森繁久弥さんは59歳で84歳の役を演じたそうです。
ソファーから転げ落ちたり、道路や歩道橋をスタスタ歩いたり、雨に濡れたり、
お風呂で溺れたりの演技を、80過ぎの俳優さんにはさせられないでしょうから。
壮絶な場面ばかりで、辛くて見ていられないのでは、と予想していましたが、
森繁さんがコメディアンだからでしょうか、
息子の嫁(高峰秀子さん)との闘いが、コントのように可笑しくて、
不謹慎にも、何度も笑ってしまいました。
介護する側の苦労は経験した人でないと解らないとは思いますが、
「死んだ方がマシ」「生きてる価値無し」「医者はなぜ殺してくれないのか」
「殺しちゃえ」「もう人間じゃない」
と言われてしまう側も哀れで泣けました。
近親者ほど受け入れがたいのでしょか、
“せめて、本人の聞こえる所では口に出さないで!”と言いたかった。
認知症は家族にとっては確かに辛いことですが、
本人は、死の恐怖がなくくなるのかもしれない…と思っていましたが、
不安感や恐怖心は消えるどころか、いつも襲っているようでした。
途中、モノクロの意味が解りました。
もしカラーだったら、きっと目を反らしてしまったでしょう。
「老人クラブへは年寄りばかりだから行きたくありません」
「婆さんは話が古くさいし、臭いから嫌いだ」
「私の娘(乙羽信子さん)はこんな年寄りではありません」
息子(田村高廣さん)のことは「暴漢、賊」、
インスタントラーメンを作ってくれた高校生の孫を「お父さん」と呼ぶ。
自分が子どもだった頃の父親の面影を見出したのでしょうか?
おじいちゃんは幼児に戻り、赤ちゃんに戻り、生まれる前の世界に戻っていった…
雨の中でのおじいちゃんのラストシーンは涙が止まりませんでした。
「この家、臭いわね~」
「だからいいんだよ。おじいちゃんがいるみたいでさ~」
介護する側、される側、いずれ、どちらかになるのかもしれない…
他人事ではありません。
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