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『煙突の見える場所』(1953・新東宝)

録画しておいた『煙突の見える場所』を見ました。

原作は椎名麟三の『無邪気な人々』、監督は五所平之助、
題名さえ知らなかった作品ですが、とても面白かったです。

見る場所によって1~4本に見える通称「お化け煙突」が見える地域で暮らす
人たちに起こった小さな事件から、人も見方で変化することが分かります。
(東京都足立区千住八千代町九拾四)

月額3千円のガタガタの二階家の借家(畳も襖もボロボロ)暮らす
緒方夫婦には子供はなく、2階の二間を独身者に又貸ししています。
(権利金無しの朝食付で、六畳間が2千円、四畳半は1700円。)

緒方隆吉(上原謙)は日本橋の足袋問屋に勤めるサラリーマンで、
妻に嘘をついたことも、道端に唾を吐いたことも無い真面目人間ですが、
小心者で、優柔不断で、面倒から逃げようとする身勝手な夫。

隆吉の妻の弘子(田中絹代)は健気な主婦ですが、
戦災で夫や身内を亡くした過去を持ち、どこか暗く思い詰めるタイプ。

間借り人の久保健三(芥川比呂志)は税務署に勤めていて、
お人好しで正義感が強く行動力もありますが、すぐ挫折するのが玉にきず。

もう一人の下宿人の仙子(高峰秀子)は、上野で街頭放送のウグイス嬢をしていますが、
可愛がって育てた甥を亡くてた過去があるせいか恋愛に臆病な女性。
常に冷静で、困ったことから決して逃げないタイプ。

ある日、緒方家の縁側に赤ん坊が置き去りされ、
添えられた手紙は弘子の元夫の塚原忠二郎からだったことで、
自分たちは二重結婚では?と警察に届け出ることも出来ない夫婦。

泣き止まない赤ん坊に振り回される4人…

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久保建三の部屋と仙子の部屋は、ふすまで隔てられていて、
仙子側は心張り棒と釘のような物で戸締まりしていましたが、
廊下からの出入り口は、二部屋とも障子で…(笑)
(久保の枕元にあった岩波文庫は龍之介だったのかしら…)

「男は仕事さえしていれば良い」という時代だったとしても、
一番若い仙子の冷静さに比べ、年長者の隆吉はあまりにも情けない。

追い詰められた妻が入水(荒川?)しようとしているのに黙って眺めているだけ、
久保に促されても「どうして助けるのか分からない」と言い出す始末。

弘子が競輪場でアルバイトしていることを知った時も、
男のメンツからなのか「夫に相談も無く」と責め、
「子供じゃないのだから自分のことは自分で決められます」と反論されてしまう。

「税金を取り立てるより男の浮気を取り締まったらどうなの!」
など、女性たちの強気の発言が小気味良かった。

「戦後女性が強くなった」と言いますが、女性は元々強いのです。
女は強くなければ生きていけないのですから…
私みたいに弱いと大変です。

この映画は昭和28年公開ですが、
「お化け煙突周辺」「競輪場」「上野の西郷さん」など当時の東京や、
貧しくても前向きで助け合い、隣家の騒音や夜泣きにも直接文句も言わず、
お勤めから帰宅するなり足袋に履き替えたり、火鉢で調理したり、
部屋で正座したままマスクを洗い火鉢の上で乾かしたり、
穴のあいた靴下を繕ったり、編み物をしたり、
沢山着込んだうえにマフラーまで巻いて寝たり…(隙間風対策)
書き出したらキリがありませんが、当時の暮らしぶりや風俗が興味深かったです。

仙子の元同僚の雪子(関千恵子)はいつもお洒落で、
オーバーコートのボタンホールが45度に、二度見してしまいました。

そびえ立つ4本の「お化け煙突」も、今なら高層ビルに隠れてしまうでしょうね。

その他の出演は、浦辺粂子、田中春男、花井蘭子 など。

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