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『不潔の歴史』

20101203 図説『不潔の歴史』
(THE DIRT ON CLEAN An Unsanitized History)
キャスリン・アシェンバーグ/著 鎌田彷月/訳
原書房

『不潔の歴史』は21世紀になってからカナダ人によって著されたものですが、
私には、『西洋の衛生学史』だと思いました。
西洋人にとって、西洋以外は眼中にないのでしょうが…

(まえがきに日本の入浴事情について少しだけ触れられていましたが、
納得は出来なかった。
例えば、「職場の人間が、休息の一環で集団で入浴することがある」とか、
「日本の浴槽は足が伸ばせない」とか。)

現代の基準からすれば(と言うより清潔好きの日本人の基準)、
この本に書かれている内容は不潔極まりないし、
潔癖症の人なら、読むだけで蕁麻疹がでるかもしれません、
ですが、衛生に対する観念は時代によっても国によっても違うのですから。

意外だったのは、初期のキリスト教徒が非常に不潔だったことです。

「入浴は自分の容姿に関心をもつおそれがあるのでけしからん」、
「身体を洗うのは虚栄心や俗心を示すもの」、
つまり、「清潔な身体と清潔な衣服は不潔な魂の表れ」
「汚さはキリスト教徒の清らかさをしめす顕著なしるし」
そのため、
「意識して自分を汚らしくして生まれついた美しい姿の見栄えを悪くさせる」
であったというから驚きです。

古代ローマ時代に公衆浴場があったことは遺跡にも遺されていますが、
身体を洗うのが目的と言うよりは、
娯楽や社交が目的の、退廃的な場所だったようなので、
キリスト教徒が受け入れられないのは当然かと思いますが、
実はそれだけではなく、清潔にしないことが一つの苦行だったようです。

聖人たちの不潔さは「においのする敬神のしるし」とされ、
生涯入浴をせず、頭も顔も手足も洗わず、歯も磨かず、着替えさえしなかったとか。
その一方で、乞食や癩病の人たちの全身を洗ってやっていたそうです。

そういえば、『ブラザー・サン、シスター・ムーン』(フランコ・ゼフィレッリ監督)の、
聖フランチェスコも汚かった…

汚いといえば、中世になってベストが蔓延すると、
入浴によってり開いた毛穴からペスト菌に感染するという説が信じられ、
風呂も洗顔もしない習慣が、フランスでは18世紀まで続いたそうです。

香水が発達したのも肯けます。
「でも、その人たち、臭ったんじゃない?」どころじゃないわ。

<目次>↓

<目次>

はじめに
 でも、その人たち、におったんじゃない?

1 浴場へ、飲みに食いに語らいに
    ギリシャ人とローマ人

2 汚れをため、キリストに浴する
    200-1000年

3 湯けむりにしのびよる疫病
    1000-1550年

4 水を寄せ付けるな、悪い気が入る
    1550-1750年

5 自然に帰って水の復権
    1750-1815年

6 風呂の入り方がわからない
    ヨーロッパ、1815-1900年

7 水と清潔で開花される人々
    アメリカ、1815-1900年

8 広告が人を洗い上げる時代
    1900-1950年

9 衛生という名の信仰
    1950-現在

謝辞および
主要参考文献・引用文献

索引 

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