芥川龍之介『三つの寶』
『魔術』で思い出したのが、芥川龍之介の『三つの寶(たから)』という本です。
文庫本と比べると大きさが判るでしょ?絵は、“マテイラム・ミスラ君”(『魔術』)
『三つの寶』定價 金五圓
芥川龍之介著 小穴隆一畫
改造社 東京市芝區愛宕下町 昭和三年六月二十日発行
この本には『白』『蜘蛛の糸』『魔術』『杜子春』『アグロの神』『三つの寶』が
収められていますが、今では考えられない程の豪華本なんです。
サイズは、A4とB4の間くらい、表紙はクロス貼り、天は金色、
挿絵は、光沢紙に印刷された小堀隆一の絵が、それぞれ2枚ずつ、
全部で14枚(表紙、裏表紙も含め)が貼られています。
昭和3年の出版で、定価は5円とありましたが、
現在ならどの位なんでしょうか…?
出版前に著者が自殺してしまったために、序文は佐藤春夫が書いていますが
さすがに名文…
他界へのハガキ
芥川君
君の立派な書物が出来上る。君はこの本の出るのを楽しみにしてゐたといふではないか。君はなぜ、せめては、この本の出るまで待つてはゐなかつたのだ。君が自分で書かないばかりに、僕にこんな気の利かないことを書かせて了ふぢやないか。だが、僕だつて困るのだよ。君の遺族や小穴君などがそれを求めるけれど、君の本を飾れるやうなことが僕に書けるものか。
~とても長いので省略~
ハガキだからけふはこれだけ。そのうち君に宛ててもつと長く書かうよ。
下界では昭和二年十月十日の夜 佐藤春夫
これが本物の初版本だったなら、かなりの値打ちがあるでしょうが、
残念ながら、ほるぷの復刻本なのです。
1974年に出版された「名著復刻全集 日本児童文学館」(ほるぷ出版社)は33冊で、
『三つの寶』以外の32冊は、保存状態が申し分ないのですが、
この本だけは(サイズの関係上)、保管場所が違っていたために箱の背が変色、
表紙と扉の間の薄紙には湿気によるシミがあって、必ずしも良好とは言えません。
でも、それより悲しいのは、付録の解説本がどうしても見付からないこと。
処分してしまったのかしら…?
もしそうなら、悔やんでも悔やみ切れません。
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