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『幸田文 しつけ帖』

20100305
『幸田 文 しつけ帖』 幸田 文/著 青木 玉/編 平凡社
『新潮日本文学アルバム 68 幸田 文』 新潮社

この本は、幸田文さんの一人娘の青木玉さんが編んだものですが、
しつけと言っても「礼儀、作法」だけではないのです。

幸田文さんが父露伴から指導(というより訓練)されたものは、
家事(電化されていない時代の)や、畠仕事、挨拶の口上や道徳観、
価値観など多岐にわたっていましたが、
掃除一つとっても、箒、はたき、雑巾など用具の手直しから使い方、
天井の煤の払い方、バケツの水の量やすすぎ方、そして動作の美しさ等々、
一事が万事、揶揄や叱責、文献からの引用を交えながらの講釈が加わり、
決して容赦しないのです。

ただ、口やかましいだけではなく、言うことが全て理に適っていて、
露伴自身が、先ず完璧にやって見せるから反論もできない。

理に敵っているとは言っても、かなり理不尽な理屈もあって、
文さん自身も、内心では“うるさい親父”と、
反抗的な気持ちが湧かないわけではなかったようですが、
負けず嫌いな性格なうえに、継母(露伴の再婚相手)との関係も、
上手くいってなかったから、父に従わざるを得なかったのかも知れません。

幸田文さんが、かくも厳しく、家事全般を父・露伴からしつけられたのも、
文さん6歳の時に生母が病死してしまったからで、
しかも、継母が家事をしない人だったからなのです。

感銘を受けたのは、外で辛い目にあった文さんが父に打ち明けること、
また、その時に露伴の言葉です。教養がなければ言えない言葉ばかりでした。

それ程厳しかった父のしつけも、父の歿後となれば、
懐かしく有り難く思い出されるのですから、親の愛とは深いものです。

幸田露伴といえば教科書にも出てくる大作家ですが、
私は未だに読んだことがありません。
せめて『五重塔』だけでも読みたいとは思うのですが…

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