『玩具』
認識不足というか、申し訳ないというか、
津村節子さんというと「少女小説」のイメージが強かったのですが、
『玩具』は1965年の芥川賞受賞作品だったのですね…!
登場人物は、作家志望の夫・志郎と、妊婦の妻・春子の夫婦だけで、
節度ある表現法で書かれているにもかかわらず、とても生々しく感じたのも、
生来の腺病質なうえに身籠もっているために、
金魚鉢の水の匂いにさえ顔を背けるほどの妻と、
結核の手術で、左の肋骨を5本失っているせいなのか、
骨に対して異常なまでの興味を示す夫の、
日常の機微を描いているからなのでしょうか。
とにかく、この夫婦関係は異常…としか思えない。
河野多惠子さんの小説の世界ほどではないにしろ、こんな関係嫌だわ…
ところで、今は、立会い出産が一般的(?)とも言える時代ですが、
春子は、自分は勿論のこと、分娩室から洩れる他の産婦の声も、
夫に聞かれたくないと思い、頑なまでに夫の付き添いを拒否するのでした。
あんな理性も羞恥心もかなぐり捨てた声を、自分は決して出さないと、
夫にも自分にも誓って、分娩室に向かったのでしたが、
果たして、その誓いは守られたのでしょうか…?
あれ程、自己中心的とも思えた志郎ですが、
いざとなれば、世間並みの夫らしき態度を示したことに、溜飲が下がりました。
古今東西、夫婦なんて、そんなものなのかも知れませんね。
骨に興奮する男性なんて、想像しただけでゾッとしますが、
これも一種の「オタク」と思えば、特別、珍しくもないのでしょう。
オタクは、今に始まったことではないと言うことでしょう。
「いつまでも少年の心を持ち続ける男性」…
「幾つになっても子供まま」が無きにしも非ず…ですね。
『現代の女流文学』3 編集/女流文学者会 朝日新聞社
有吉佐和子『華岡青洲の妻』
津村節子『玩具』
田辺聖子『感傷旅行』
広津桃子『春の音』
保高みさ子『ある晴れた日に』
森田たま『東京の女・大阪の女』『芥川さんのこと』
林芙美子『稲妻』
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