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『心映えの記』

太田治子さんが作家で「斜陽の子」と言われる人ということは知ってましたが、
今まで、著書のタイトルさえ知りませんでした。
「日曜美術館」の初代アシスタントのイメージでしたから…

最近、偶然が切っ掛けで、太宰治や美知子夫人、
太田静子さんなどの著書を読んだことから、彼女にも興味が湧きました。

太田治子さんの『心映えの記』は、肝臓ガンのため、
術後一週間で天国へ旅立ってしまった母静子さんへの鎮魂歌とも言うべき、
回想の書でした。

生活が苦しかった時代の母との思い出、母にはお見通しだった屈折した女心、
また、嫌がる母に手術を勧めてしまった事への自責の念…
それらが、真面目で重苦しい筆致で綴られていました。

結婚願望が強いのに、30代半ばになっても未婚のままの娘に、
「あなたは心映えが悪いから、お相手が現れないのよ。
ご縁に恵まれないのは、あなたの心映えが悪いからよ。」と言う母親…

ご縁が無いというより、惹かれるのは妻子のある男性ばかりで、
独身の男性に異性として惹かれないからなのです。
これ、著者の誕生の経緯が関係しているのでしょうか…?

初め漠然とし過ぎて、「心映え」の意味が分からなかったのですが、
“そんな素振りは見せないけれど、自分は美人だと密かに思っていること”
美人意識が過剰ということでした。
自分の写真を見た時に、ありのままに写っているのに、
“実物はもっと綺麗なはずなのに、自分は写真写りが悪い。”
と思ってしまうらしいのです。

でもこう思う人って結構多いような気がします。
鏡に映る自分は左右が逆ですし、自分の鏡は自惚れ鏡ですから。

治子さんがなぜ「美人意識」を持つようになったかといえば、
高校1年の時に、母親から
「遠くから見たら、あなたは、なかなか綺麗だった、80点よ。」
と言われたからなのです。

自分では、かなり美人だと思っているのに、
母親から80点と言われたことがショックで、自意識過剰になってしまった彼女…
…たとえそうでなくても、母親なら最高点を付けてくれてもいいのに、
なぜ、せめて90点と言ってくれないの?…と恨んだそうです。

静子さんに限らず、昔の親は自分の子供を褒めなかったのかもしれません。
謙虚、謙遜が美徳の時代、我が子が高慢で自惚れやになったら、
世間から非難されるのは当人だけじゃないですからね。

美人意識にしてもそうですが、こんなに正直に書いてしまっていいのかしら?
と思っていましたが、この本は随筆ではなく、
フィクションに分類されてあったわけですから、小説だったのです。

私小説というものは、どの部分が創作なのか気になるものですね。

20090820
『心映えの記』 太田治子/中央公論社
(『中央公論』S59年1月号~12月号連載)

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