「わたしを束ねないで」
わたしを束ねないで
あらせいとうの花のように
白い葱のように
束ねないでください わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂
わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃き
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音
わたしを注がないで
日常性に薄められた牛乳のようにぬるい酒のように
注がないでください わたしは海
夜 とほうもなく満ちてくる
苦い潮 ふちのない水
わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
坐りきりにさせないでください わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風
わたしを区切らないで
,(コンマ) や .(ピリオド) いくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください わたしは終りのない文章
川と同じに
はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩
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新川和江さんの詩、「わたしを束ねないで」を最初に読んだのは、
40年近くも昔のこと、とても共感しました。
十把一絡げに束ねられたり、枠にはめられたり、収められたりはイヤ、
あらゆる束縛から解放されて生きたい。
いいなぁ男性は自由で~差別されるのは、いつだって女の方…
何故?…女に生まれたくて生まれてきたんじゃないのに…
若い頃は、そう思っていました。
でも、男性だって束ねられたり枠にはめたり、収められたりされてるのですよね。
就職しなくても(出来なくても)、女性は「家事手伝い」で済むのに、
男性の場合は「ニート」と言われてしまう…
家庭(経済的に)でも、職場でも、より責任を負わされるのは男性の方ですし、
有事の際には、主義に関係なく殺し合いを強制される…
<日本女流詩集>『翼あるうた』
新川和江 編 掘文子 装画 若い人の絵本シリーズ(童心社)
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