『醜女の日記』
『醜女の日記』(関 義・訳 新潮文庫)という小説をご存知でしょうか。
フランスの小説家・シャルル・プリニエ(1894-1952)の作品で、
原題は「Beaute des Laides(醜女の美しさ)」といい、1952年に発表されました。
(「醜女」は“しこめ”と読みます。)
私が読んだのは、もう40年も前の、高校生の頃でした。
何気なく書店の文庫本コーナーを眺めていた時、
引き寄せられたかのように、その衝撃的な題名が視界に飛び込んで来て、
思わず手にしていました。
作品では、主人公の女性の亡き後に、彼女の日記を託された友人(私)が、
その中から抜粋し、出版したという形を取られていますが、
実は、シャルル・プリニエの身近で、似たような事件が起こり、
それをヒントに、書かれたそうなのです。
↓
主人公のサビーヌ・サブリエは、美しい声の持ち主の歌手ですが、
自分の顔に劣等感を持ち、それが彼女の人生を破滅へ導いてしまうのです。
誰だって(ほとんどの人は)、自分の容姿は気になるものです。
若い女性なら尚のこと、自意識過剰になるのも無理はありません。
サビーヌの場合、具体的には判りませんが、
美人では無いにしても、彼女が思っているほど醜いとは思えないのです。
彼女に思いを寄せるピアニストのハンス・ミュラが、何度食事に誘っても、
“私みたいな醜い女といる所を人に見られたら、恥ずかしいはず…
ハンスの様に美しい男性が、自分のような女を好きになるはずは無い。”
と決めつけ、いつも断ってしまう…
ハンスの愛に確信が持て、求婚を受ける決心した時、不幸は訪れます。
苦悩の末、喜んで貰おうと、美容整形を受けてしまったのです。
美しく生まれ変わったサビーヌでしたが、期待は裏切られました。
“中身は前のままの私よ。”と言っても、
“外見が変われば、中身も変わる。もう僕の愛した人とは違う…。”
と、彼は去って行ってしまったのです。
決して、ハンスが醜女好みだったのではありません。
あるがままの彼女を、愛していたのです。
(その時のハンスの反応に、とても感動した記憶があります。)
外見が変われば、当然、内面も変わるでしょう。
劣等感が謙虚さや優しさに、自信が堕落や傲慢さに繋がらないとも限りません。
顔が美しくなった反面、中身が醜くなる場合も無いとは言えないのですから…
美しくなれば、確かに人生は変わるでしょう。
しかし、だからといって、幸せになれる保証は、どこにもないのですから…
| 固定リンク
「* 本」カテゴリの記事
- 『早春物語』(赤川次郎・著)(2014.11.06)
- 『すらすら読める枕草子』…2(2014.10.14)
- 『すらすら読める枕草子』 (2014.10.07)
- 「花子とアン」と「アンのゆりかご」(2014.09.14)
- 「アンのゆりかご 村岡花子の生涯」(2014.04.30)
最近のコメント